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契約書の時間
 私は常々、契約書について根本的な認識の違いを感じているが、今回はそのことについて書いてみたい。
  よくリフォームの指南本に「契約書を書かない業者は要注意」「小工事でも契約書を」などと書いてあるが、みなさんどのくらい信じて読んでいるのだろうか? どちらかと言えば  「どんな工事でも契約書を書きたがる業者は要注意!」というのが本当ではないだろうか。
 

 まず、実態から言えば(統計値などがあるわけでなく、私の印象だが)、契約書を自分のために利用しているのは、消費者ではなく業者が圧倒的に多い。特に悪徳業者が無理矢理にとった契約を維持するために使用している。「今日中にサインしてくれたら、共同発注に間に合うから安くできる」などというトークで契約を急がせるが、実はバカ高い工事。ムードで契約した消費者が高いと気付いても「もう契約してしまった」とあきらめるケースが大半の使われ方だ。消費者が自分の権利を守るために使用された例はほとんど聞かない。
「でも、ちゃんと契約書を交わしておかないと、あとでいくら請求されるかわからないから怖い」という声が聞こえてきそうだが、実はそんなことはほとんど関係が無い。契約書には抜け道があって、「記載されていない工事は別途費用が必要になる」旨が謳われているが、悪徳業者にかかったら「別途工事」を作り出すことなど朝飯前なのである。それも、それをしないと工事全体が成り立たないような巧妙な仕掛けを用意している。結局は形式にすぎない。世間知らずもほどほどにしないと、痛い目にあう。
見方を変えると、どんな工事でも契約書を書きたがる会社は、よほど自信が無いか、年中トラブルに巻き込まれている可能性がある。自分の身を守るために書いているからだ。
(工事が粗悪でクレームがついても集金はできるように・・・)
(顧客が高いのに気が付いて、キャンセルされないように・・・)
(追加工事の費用を取りやすいように、もとを明確にしておこう・・・)
全て自分の都合から出ている。

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 では私の会社ではどうかと言えば、ほとんど契約書は書いていない。クレームは、対応に納得していただくまで「お金」とは言わないし、私の性分で材料を発注してからでもキャンセルは受け付ける(クーリングオフの8日間などとせこいことは言わない)。追加工事は明らかに、お客様の希望で同意を得たものしかいただかないので、見積もりに確認もれがあったりして別途費用が必要な場合でも、請求せずにサービスですませている(契約書で細かく設定していると、そんな費用も請求しやすくなる)。
こんな調子なのでトラブルになったことは無いし、あちこちで裁判したりしている会社は例外なく「きっちり契約書を書いている会社」なので、どちらが不安かは考えものだ。所詮、リフォームの指南本など書いている人は「評論家」なので現場の実際を知らない。

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 ちなみに当社がどんな場合に契約書を書いているかというと、

・高額工事(500万円超が目安だが、それでも書かないことはある)
・お客様が希望された時

しか書いていない。昨年も今年も500万円超の工事で契約書を交わしていない工事はあったが、現在どちらも円満な関係で、リピートで工事を頼んでいただいたり、お客様を紹介していただいたりしている。
「どんな小工事でも契約書を書くべきだ」という人は多いが、請負をしたことが無いのではないだろうか。当社はリピートが多いので、見積書を提出せずに仕事をすることも多い。だいたいの値段を口頭で伝えるだけで仕事をしたり、はなはだしい時は値段を決めずに仕事をすることもある。そんな人間関係の中で、4〜5万円の工事で「契約書を」などと言っていれば、面倒くさがられるか笑われる。

 しかし、契約書を書いていないことでつまらない経験をしたことは何度かある。当初の見積もりから強い値引き交渉があり妥協した上、口頭で「では○○○万円でこの内容でさせていただきますね」「ええ、お願いします」と固く(?)約束をして材料も発注したのに、工事の前日ぐらいになってから「やっぱり○○○万にしてくれんと頼まれへんわ」とか「○○○万はおたくの見積もり金額で、うちはまだ同意してへんで」とか人間不信に陥りそうなことを平気で言い始める。すでに段取りが動いているのがわかっていて、こちらが降りられないのを見越して言ってくる。このタチの悪さは尋常ではない。悪徳業者顔負けだ。
そんな時、私は「もう、こんな人の顔を見るのもいらん」と思って損害覚悟できれいにやめる。「では、今回は遠慮しときますわ」と帰ろうとすると、かえって驚かれて「ほんまにええのか、もう材料発注したんやろう?」と狼狽されたような方もいた。経営的にはもう少し値引きしても、いらない材料をかかえて遊ぶよりはマシだと思うが、私の性分はどうにもならず、金銭的に損失を被っても、それ以上付き合いたくないのだから仕方が無い。

 こんなケースでは、明らかに契約書の無いことが業者側のデメリットになっている。契約書が無いことによって、非常に不安定で弱い立場に立っているわけだ。そう考えると契約書をあまり書かない業者は、要注意どころかかえって自信の表れであって、決して「悪い状態では無い」と考えている。

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要約すると、リフォーム工事等の請負契約書は基本的に業者のためにある。消費者側からみて必要な例もあるが、全体的に例は少ない。急いでサイン・ハンコをせまる会社よりも、おっとりと口約束で仕事をする会社の方が「実(じつ)がある」。
昔の大工さんは、その口約束すらせずに仕事をしていた。材料をどれだけ使ったか、何日かかったか、答えがでてから請求金額を決めた。現在でも田舎のほうでは「そんなところ」がある。現在のご時勢でそれが良いことだとは思はないが、少なくとも彼らは善意で仕事をしている。私はそういう大工さんや工務店に郷愁を感じる。現在の私には、そんなことは許されていないからだ。

 最近、当社は必要を感じて契約書のフォームを作り直したが、こんな項目を設けている。
「甲は甲の事情によって、この契約を解除できるものとする」
甲とはもちろんお客様のことで、お客様の気まぐれでのキャンセルを認めている。その気がなくなったのに無理にでも工事をさせていただく、などと言う気は全く無いからだ。私は事業も大切にしているが、それ以上に「自分の気持ち」を大切にしている。
ちなみに「必要を感じた」というのは、当社の側から契約解除を申し出る条項を追加したくなったということだ。もちろんそれは「気分」などは許されず、あくまでもお客様の都合(あまりに頻繁な仕様変更や家族間の意見が調整できない場合)で工事日程に支障がでる場合に限られている。それでも、周囲からは「そんなんでは商売できんぞ」などと言われるが、嫌になった仕事はしたくないのである。

 要するに「あまり言うことが変わって、段取りに支障が出るようになれば、当社の意思で解約させてください」ということだ。こんな契約書があっても面白いと思うのだが・・・。

 
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